今日も、エレベーターはいろいろな施設で活躍しています。
皆さんは、いろいろなエレベーターに乗っていて
「いつもと動き方が違う」と思ったことはありませんか?
そのエレベーター、実は「油圧式」だからかもしれません。
そこで、この記事では、油圧式エレベーターの仕組みや製造中止になる?という疑問など、メリット、デメリットなどを紹介します。
実際にエレベーターに乗って油圧式かどうかを判断することもできますので、この記事を参考に油圧式エレベーターを楽しんで頂ければ幸いです。
それでは見ていきましょう。
油圧式エレベーターの仕組み
油圧式エレベーターは、「油圧パワーユニット」・「油圧ジャッキ」・「圧力配管」で構成されています。
機械室は建物下部に設置され、油圧パワーユニットは制御盤と共に機械室内に設置されます。
油圧式エレベーターは、電動ポンプで油圧ジャッキを働かせて、かご室を昇降させるのが基本的な駆動方式です。
また、油圧式エレベーターには「直接式」と「間接式」に大別されます。
直接式は、油圧で伸縮するプランジャーをかご室の底に接続して持ち上げたり降ろしたりします。
それに対し間接式は、プランジャーの動きでロープを牽引することでかご室を昇降させます。
日本では、油圧式エレベーターの9割が間接式を採用しています。
なお、油圧式エレベーターの速度制御方式は、主に「流量制御弁方式」と「VVVFインバーターによるポンプモーター制御方式」があります。
油圧式エレベーターの仕組みは以上です。
油圧式エレベーターのメリット・デメリット
ここでは、機械室が設けられているロープ式エレベーターと比較しながら説明します。
メリット
(1)屋上に機械室を設置しなくて良い
ロープ式エレベーターの機械室は必ず屋上に設置しなければなりません。
屋上に設置する場合、日照権の問題や、重たい機械を置くための建物の強度に対する制約などがあり、機械室は簡単に設置することはできません。
それに対し油圧式エレベーターは、機械室を建物下部に設置します。そのため比較的自由にレイアウトが可能になっています。
(2)重量物の搬送に適している
ロープ式エレベーターは、建物上部に荷重が掛かってしまうため、重量物の搬送には適していません。
それに対し、油圧式エレベーターは油圧ジャッキで下からかご室ごと持ち上げるため、建物上部には荷重が掛かりません。
したがって、油圧式エレベーターは積載力が大きく、重量物を搬送するのに適した方式なのです。
デメリット
(1)昇降路の長さ・走行速度に限界がある
油圧ジャッキでかご室を持ち上げているため、高いところにはかご室が届きません。
また、速く昇降することもできません。
(2)消費電力が大きい
油圧式エレベーターはかご室を持ち上げるのに大きなパワーが必要で、それなりにモーター出力も大きくなります。
したがって、ロープ式エレベーターよりも消費電力は大きくなります。
また、上りでは起動時に照明がチラつくことも少なくありません。
(3)油のにおいがする
油圧式エレベーターに乗ると、油のにおいがします。
においは個体差があり、ほとんどないものから不快に感じるものまでさまざまです。
また、どのくらい不快に感じるかは個人差があるので、油のにおいが苦手な方もいるでしょう。
(4)乗り心地が悪い
流量制御弁方式で速度制御しているエレベーターは特に乗り心地が悪いです。
かなり古いエレベーターでない限り、ロープ式では
「緩やかに加速」→「定速走行」→「緩やかに減速」→「停止」
という順に動作します。
それに対し、流量制御弁方式の油圧式エレベーターは
「加速」→「定速走行」→「減速」→「低速走行」→「停止」
という順に動作します。
流量制御弁方式の油圧式エレベーターの特徴を細かく見ていきましょう。
まず、加速ですが、急加速するエレベーターは少なくありません。
特に、下りはドアが完全に閉まるのと同時にいきなり加速するエレベーターもあります。
それに対し、上りはドアが完全に閉まってから動き始めるまでに時間がかかります。
上りは照明をチラつかせるくらい、とても大きな力を使うのです。
次に定速走行ですが、ロープ式に比べると遅く、昇降路が長いと退屈するかもしれません。
目的階に近づくと減速しますが、まだ停止しません。
急に減速するエレベーターもあります。
到着チャイムがあるエレベーターはチャイムが鳴ったタイミングで減速するものが多いです。
停止するときは、ロープ式のようにピタッと止まれば良いのですが、油圧式では上下に揺れます。
多少、急に停止してもしっかり止まるものもあれば、アトラクション並みにかなり揺れるものもあるので、足元に十分注意したいところです。
一方、VVVFインバーターによるポンプモーター制御方式の油圧式エレベーターの動作は、ロープ式エレベーターと大差ありません。
以上が油圧式エレベーターのメリット・デメリットです。デメリットの(3)・(4)から油圧式かどうかを判断することができますね。
油圧式エレベーターの数が少なくなってきた理由
ここからは、油圧式エレベーターがなぜ数を減らしているのか説明します。
(1)機械室レスエレベーターの誕生
1998年、国産初の機械室レスエレベーターが誕生しました。
東芝エレベータの「スペーセル」です。
このエレベーターは、ロープ式エレベーターの特性はそのままに、巻上機や制御装置を小さくして昇降路内に設置することで、いままでのロープ式エレベーターで必要だった屋上の機械室を不要にすることができました。
これにより、油圧式エレベーターの「屋上に機械室を設置しなくて良い」というメリットは失われ、「機械室がある」というデメリットが生まれることになりました。
また、他のメーカーも機械室レスエレベーターの開発を行い、大手メーカーでは・・・
を発売しました。
機械室レスエレベーターが誕生したことにより、油圧式エレベーターはほとんど採用されなくなりました。
現在は、ホームエレベーターなど、ごく一部で販売しています。
(2)更新時期や部品供給の終了が迫っている
エレベーターの法定耐用年数は17年と定められています。また、エレベーターの主要機器の耐用年数は概ね20年を目処とされています。
つまり、各メーカーは耐用年数に合わせてエレベーターの部品供給を行っているといえます。
では、油圧式エレベーターはどうでしょうか。
油圧式エレベーターは、バブル期に多く製造されてきました。
つまり、耐用年数の目安である20年を既に経過して老朽化が進んだエレベーターが多くあるのです。
もし、部品供給が終了した機種のエレベーターが故障した場合、そのエレベーターは「ジ・エンド」となり、更新するしかありません。
そのため、油圧式エレベーターでは更新が進められており、数を減らしているのです。
ちなみに、エレベーターの老朽化はロープ式でも進んでおり、三菱電機ではLEDマトリクス式のデジタルインジケーターを使用している「グランディ」が更新の対象となっているくらいです。
以上が、油圧式エレベーターの数が少なくなってきた理由です。
油圧式エレベーターは消滅するのか
油圧式エレベーターの更新が進んでいますが、このまま消滅してしまうのでしょうか。
答えは、すぐには消滅”しません”。
現在でもホームエレベーターなどで油圧式エレベーターは販売されていますから、すぐに消滅ということにはならないといえます。
また、油圧式エレベーターの更新ではロープ式エレベーターには切り替えず、更新後も油圧式のままとする更新もあります。
大手メーカーの中から1つ挙げると、フジテックの「エレベータ制御盤交換パッケージ」がそれに当たります。
エレベータ制御盤交換パッケージは、必要なところだけを最新の装置に置き換えます。
工期は、油圧式では標準工程で6日間と短く、工事期間中でも一部の時間帯ではエレベーターの使用が可能になっています。
操作盤なども交換され、アナウンスも追加されることから、見た目は最新の「エクシオール」に近づきますが、更新後も油圧式のままです。乗り心地はあまり改善されません。
このように、フジテックでは短工期ながらも更新後も油圧式のままとする更新プランがあり、現在はこのようなエレベーターが増えています。
したがって、ホームエレベーターを除いても油圧式エレベーターがすぐに消滅ということにはならないといえます。
エレベーター更新に対する各メーカーの工夫
油圧式エレベーターの更新時期が迫っている中、各メーカーでは少しでも工期を短くしたり、コストを抑えようとしたりと、工夫を凝らしています。
以前は、更新しようとなると部品を全部交換するしかなく、長い工期と高いコストで、工事期間中は連続休止してエレベーターを利用したいのに利用できない状態になっていました。
現在は
「必要なところだけ交換する」
が基本で、これによって短工期・低コストを実現しています。
先ほど挙げたフジテック以外の大手メーカーはどうなっているのか見ていきましょう。
三菱電機
「エレ・ファイン」という名称で油圧式エレベーターの更新を提案しています。
エレ・ファインは制御・駆動部だけを変えるだけでロープ式の機械室レスエレベーターに更新できます。
工期は連続休止7~10日間です。
日立ビルシステム
「Y_Select(ワイセレクト)」と呼ばれる4つのメニューで更新を提案しています。
その中でも「セレクト1」は工事期間が最短で6日と他のメニューに比べて短いですが、更新後も油圧式のままとなります。
東芝エレベータ
「エルフレッシュ」という名称でエレベーターの更新を提案していますが、油圧式エレベーターは「全撤去」・「準撤去」・「ミニマム」と3つのプランがあります。
その中でも標準工期が短いのはミニマムで、20~15日ですが、機械室に設置されていた機器は油抜き・廃油を実施の上残置され、機械室を他の目的に活用することはできません。
OTIS
「RENOVA DUO(リノーバ・デュオ)」という名称で油圧式エレベーターの更新を提案しています。
リノーバ・デュオは、ロープ式ではなくGen2シリーズと同じフラットベルト式に更新します。
標準型エレベーターのGen2 Premierとの違いは、デジタルインジケーターがマトリクスではなくセグメントであることと、ボタン・インジケーター点灯色は白を基本としておらず、オレンジに点灯することです。
このように、各メーカーは短工期・低コスト化して油圧式エレベーターの更新を勧めていることがわかります。
まとめ
油圧式エレベーターは、かご室を下から持ち上げるイメージで駆動し、屋上に機械室を設けなくて良い方式でしたが、機械室レスエレベーターの登場でそのメリットを失いました。
また、施設管理者側だけでなく利用者側にもデメリットがありました。
多くのデメリットを抱えていることと更新時期が重なり、油圧式エレベーターは現在でも数を減らし続けています。
各メーカーは、油圧式エレベーターの更新が検討しやすくなるよう、工夫を凝らしています。
現時点で油圧式エレベーターが消滅することはありませんが、まだ多く残っているうちに乗って楽しみたいところです。
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